外国人採用を検討する際、各国の特徴や文化、注意点を理解することは非常に重要です。例えば、欧米諸国から見て日本と中国・韓国が同じに見られることがありますが、日本人の私たちからすれば文化も言語も全く異なりますよね。それと同じように「海外から人材を受け入れる」といっても国籍によって文化や環境が全く違います。
本記事では、国籍別の特徴・文化をはじめ、外国人採用で最も重要な「国選び」の方法について分かりやすくまとめています。
ベトナムもフィリピンもインドネシアも同じじゃないの?
各国によって文化が異なるため、外国人というひとくくりで人材を扱うと雇用後に頭を抱えることになります。本記事で、「外国人」という大枠の認識から卒業し、各国ごとの特徴や注意点について学んでいきましょう。
厚生労働省が発表した資料によると、令和6年10月末時点で国内で働く外国人労働者は、ベトナム国籍の労働者が570,708人で最も多く、全体の約24.8%を占める結果となりました。
次いで中国が408,805人(17.8%)、フィリピン245,565人(10.7%)、ネパール187,657人(8.1%)、インドネシア169,539人(7.4%)の順となっています。
ベトナムと中国が日本の外国人労働者全体の約4割を占めており、外国人労働者といえば「ベトナム・中国」を連想する方も多いのではないでしょうか。
直近のトレンド、増加率という観点で見るとどうでしょうか。
対前年度の増加率では、ミャンマーが43,430人(61.0%)、インドネシア48,032人(39.5%)、スリランカ9,863人(33.7%)という結果になりました。この結果を見ても、ベトナム・中国だけではなく様々な国から働きにくる外国人が増えていることが分かります。以下は、各国の外国人労働者数と前年度比です。
国籍 | 外国人労働者数(2024年10月末時点) | 前年増減比 |
---|---|---|
ベトナム | 570,708人(構成比:24.8%) | +10.1% |
中国 | 408,805人(構成比:17.8%) | +2.7% |
フィリピン | 245,565人(構成比:10.7%) | +8.3% |
ネパール | 187,657人(構成比:8.1%) | +28.9% |
インドネシア | 169,539人(構成比:7.4%) | +39.5% |
ブラジル | 136,173人(構成比:5.9%) | –0.7% |
ミャンマー | 114,618人(構成比:5.0%) | +61.0% |
韓国 | 75,003人(構成比:3.3%) | +5.0% |
タイ | 39,806人(構成比:1.7%) | +8.9% |
スリランカ | 39,136人(構成比:1.7%) | +33.7% |
その他 | 315,577人(構成比:13.7%) | – |
多様な国から労働者を受け入れている日本ですが、受け入れる企業側も国ごとの特徴や文化について理解を深める必要があるでしょう。
国籍別の外国人労働者数が分かったところで、ここからは『外国人を雇用する』という観点で各国の特徴や文化について見ていきましょう。
日本で最も労働者が多いベトナムは、2020年以降中国を抜いて以来、首位を維持しており全外国人労働者の約1/4を占めるまでに成長しています。
ベトナム人は製造業・建設業を中心に活躍しており、現場系の仕事に適応しやすいことが特徴です。ただし、技能実習の割合が最も高いため雇用する際は制度の理解が必要です。
ベトナム人の特徴
・平均年齢約32歳と若い労働力が豊富
・日本で働く人口が最も多い
・在留資格「技能実習」を中心に成長
ベトナム人が働く産業TOP3
1位:製造業218,308人(構成比:38.3%)
2位:建設業69,995人(構成比:12.3%)
3位:卸売・小売業64,904人(構成比:11.4%)
在留資格の上位3資格
・技能実習:223,291人(構成比:39.1%)
・専門的・技術分野の在留資格:196,049人(構成比:34.4%)
・資格外活動:101,886人(構成比:17.9%)
雇用する場合の注意点
・法務省が発表した令和5年度の「犯罪白書」によると、窃盗罪などで捕まる件数が最も高い
・低品質な団体が横行し、借金を抱えて入国させる事例も散見されるため企業側の見極めが必要
中国は、ベトナムに次いで2番目に多い外国人労働者です。2020年以前までは中国が首位を走っており、IT分野や小売業を中心に日本の産業を支えています。
中国人は卸売・小売業で働く人が最も多く、産業別でいえば4位に位置する情報通信業(IT分野)においては国籍別で最も多く活躍していることが特徴です。現場仕事というよりも頭を使う商いが得意な傾向にあります。
中国人の特徴
・理系・IT系を中心に高度なスキルを持つ人材が豊富
・日本の大学を卒業した中国人留学生も多く、漢字を使うなどの共通点から日本語が堪能な人材が見つかりやすい
・日本企業との取引経験を持つ中国人も多く、即戦力になりやすい
中国人が働く産業TOP3
1位:卸売・小売業85,529人(構成比:20.9%)
2位:製造業69,742人(構成比:17.1%)
3位:宿泊・飲食サービス業53.270人(構成比:13.0%)
中国人の上位3資格
・専門的・技術分野の在留資格:163,512人(構成比:40.0%)
・身分に基づく在留資格:139,656人(構成比:34.2%)
・資格外活動:67,751人(構成比:16.6%)
雇用する場合の注意点
・自身のキャリアへの関心があり、転職の意識が高い
・意見をはっきり言う文化があるため、日本の「察する」文化とは異なり主張が強い
フィリピンは、セブ島などの観光の面でも人気の国で、平均年齢が24~25歳と若く公用語として英語を使うことが特徴です。
フィリピン人は、フレンドリーで家族想いの面があり、身分に基づく在留資格(永住者、日本人の配偶者等)の割合が他の国籍と比較して最も高く、全体の6割以上を占めています。また、医療や福祉で活躍しており、介護施設など選ばれています。
フィリピンの特徴
・英語が公用語であり、英語能力が高い
・海外就労志向が強く、日本以外の国でも多く働いている
・介護・医療分野での雇用が拡大中
フィリピン人が働く産業TOP3
1位:製造業79,420人(構成比:32.3%)
2位:医療・福祉21,652人(構成比:8.8%)
3位:卸売・小売業15,333人(構成比:6.2%)
フィリピン人の上位3資格
・身分に基づく在留資格:153,833人(構成比:62.6%)
・技能実習:43,508人(構成比:17.7%)
・専門的・技術分野の在留資格:38,833人(構成比:15.8%)
雇用する場合の注意点
・「フィリピンタイム」という言葉があるほど時間にルーズな傾向がある
・ものごとを忘れがちで長期的な計画を立てることが苦手な人が多い
ネパールは中国とインドの間に位置する、南アジアの国です。有名なものであれば世界一高い山のエベレストがあります。公用語の英語は小学校から教育が始まることもあり、グローバルに活躍できる人材が多いです。
ネパール人の多くは、ヒンドゥー教徒または仏教徒であり、牛肉を食べない人も多いので食事での配慮が必要です。また、在留資格「資格外活動」の構成比が全体の約7割と最も高いため、アルバイトなどで雇用されている傾向があります。
ネパールの特徴
・英語が公用語であり、英語能力が高い
・海外就労志向が強く、日本以外の国でも多く働いている
・介護・医療分野での雇用が拡大中
ネパール人が働く産業TOP3
1位:宿泊・飲食サービス業55,730人(構成比:29.7%)
2位:卸売・小売業29,867人(構成比:15.9%)
3位:製造業23,743人(構成比:12.7%)
ネパール人の上位3資格
・資格外活動:1261,358人(構成比:67.3%)
・専門的・技術分野の在留資格:48,172人(構成比:25.7%)
・身分に基づく在留資格:6,616人(構成比:3.5%)
雇用する場合の注意点
・ネパール人の多くは、日本に留学しながらアルバイトをしているので労働には不向き
・資格外活動(アルバイト)として働く場合、週28時間の制限があるため在留資格の管理に注意
インドネシアはJAPANNESIAも専門に取り扱っている国で、世界で4番目に多い人口を誇り、日本語教育学校の数・レベルともに高く、バランスに優れた人材が多い国です。イギリスのチャリティー機関「チャリティーズ・エイド・ファンデーション」が発表した「World Giving Index(世界人助け指数)2024」によれば、世界人助け指数を7年連続で1位を獲得するなど、人間力が高い人材が豊富に溢れていることも特徴といえるでしょう。
インドネシア人は、2022年頃から急激に増加しているトレンドの人材です。活躍する業種も幅広く、ベトナムに次ぐ「第二の主役」になると言われており、技術・日本語レベルのスキルが求められる「特定技能」の構成比は他の国籍と比較して最も高い傾向にあります。
以下の記事で、地方にある介護施設がインドネシア人の採用に踏み切った理由や、採用前に不安だったこと、教育の方法など詳しく事例ベースでインタビューをしています。
インドネシアの特徴
・平均年齢約30歳と若く、労働力が豊富
・世界人助け指数7年連続1位の魅力的な人間力
・親日的で、日本企業での就労意欲が高い
インドネシア人が働く産業TOP3
1位:製造業57,034人(構成比:33.6%)
2位:建設業36,615人(構成比:21.6%)
3位:医療・福祉業19,447人(構成比:11.5%)
インドネシア人の上位3資格
・技能実習:93,545人(構成比:55.2%)
・専門的・技術分野の在留資格:54,622人(構成比:32.2%)
・身分に基づく在留資格:7,423人(構成比:4.4%)
雇用する場合の注意点
・インドネシア人の多くは、イスラム教とキリスト教であるため豚肉やアルコールに配慮が必要
・時間にルーズな文化があり、ルールの明確化が必要
ミャンマーは仏教徒が多い東南アジアの国で、135民族から成る多民族国家ですが、約9割が仏教徒です。宗教の面でも日本の価値観と近く、近年注目されている国であるといえます。
ミャンマー人は、ミャンマー国内の政治的・経済的状況も影響し、日本で働きたい人材が増加しています。ボディタッチをしてはいけない・人前で大きな声で話をさせないなどの独自のマナーがありますが、文化を理解すれば親日感情は高い傾向にあるため、良い関係を築けるでしょう。
ミャンマーの特徴
・平均年齢約30歳と若く、労働力が豊富
・世界人助け指数7年連続1位の魅力的な人間力
・親日的で、日本企業での就労意欲が高い
ミャンマー人が働く産業TOP3
1位:宿泊・飲食サービス業24,196人(構成比:21.1%)
2位:製造業21,887人(構成比:19.1%)
3位:医療・福祉業17,724人(構成比:15.5%)
ミャンマー人の上位3資格
・専門的・技術分野の在留資格:35,888人(構成比:31.3%)
・技能実習:33,878人(構成比:29.6%)
・資格外活動:21,810人(構成比:19.0%)
雇用する場合の注意点
・ミャンマーでは2021年には軍事クーデターが発生するなど国内情勢が安定していないため注意
・ミャンマーの女性には人前で大きな声で話をさせないなどの特殊なマナーが存在するため配慮が必要
厚生労働省が発表の「外国人雇用状況」を元に、構成比が多い順に表を作成しました。
この表は現時点での構成割合に基づいて作成しており、ミクロに見れば多様な人種がさまざまな在留資格で働いていることが実情であるため、あくまで目安としてご覧ください。
産業 | おすすめの国 | 在留資格(多い順) |
---|---|---|
製造業 | ベトナム フィリピン インドネシア タイ |
技能実習 特定技能 |
卸売・小売業 | スリランカ 中国 韓国 | 資格外活動 技術・人文知識・国際業務 |
建設業 | インドネシア ベトナム フィリピン |
技能実習 特定活動 |
宿泊・飲食サービス業 | ネパール スリランカ ミャンマー |
資格外活動 特定活動 |
医療・福祉業 | ミャンマー インドネシア |
特定技能 特定活動 |
情報通信業 | 中国 韓国 |
技術・人文知識・国際業務 身分に基づく在留資格 |
教育・学習支援業 | 韓国 中国 |
資格外活動 身分に基づく在留資格 |
各国の特徴が分かったところで、企業が外国人を雇用する際に注意しなければいけないポイントについて説明します。
海外では、人前で怒るという文化に抵抗がある国が多いです。
また、昨今ではこうした指導方法により外国人の離職につながるケースもあります。仕事でミスがあっても間違いを冷静に指摘し改善を目指しましょう。
コンテクストカルチャーとは、コミュニケーションスタイルのことであり、大きく2つに分類されます。
・ハイコンテクストカルチャー
・ローコンテクストカルチャー
ハイコンテクストカルチャーとは、言葉ではなく文脈や感覚で「空気を読む」コミュニケーション文化のことです。日本はハイコンテクストカルチャーを持つ人種であるといえます。
逆にローコンテクストカルチャーは、コミュニケーションそのものがほぼ言語を通じて行われ、明快かつ曖昧さがない文化のことを指します。ローコンテクストカルチャーは、主にアメリカやオーストラリアなどで活用されています。
ここで注意しなければならないポイントは、ハイコンテクストカルチャーの国であっても外国人は日本語を正確に理解することが難しい側面があるため、状況に応じて適切に使い分ける必要があるということです。
指導するべきところは言葉を濁さずしっかりと伝えることが大切です。(感情的に怒らないこと)
日本で外国人が働くためには必ず「定められた在留資格」によって活動する必要があります。もし、外国人から応募が来た際は必ず在留カードや在留資格を確認し、就労可能な資格であるかどうか・期間は残っているかどうかを確認しましょう。
在留資格・在留カードについては以下の記事を参考にしてください。
いかがだったでしょうか。
今回は各国ごとの特徴について解説しました。外国人採用は人手不足の日本にとって「救世主」ともいえる可能性を秘めています。今後もますます増加することが予想されるため、中長期を視野に外国人採用に適切な国から適切な人材を選ぶことをおすすめします。
外国人の国選びで迷っている場合はJAPANNESIAの60分無料オンライン壁打ち会(問い合わせページに飛びます)をご活用ください。
著者プロフィール
上田 浩之
外国人雇用労務士。JICA事業でインドネシアに2度の渡航を経験。現地にて整備学校の立ち上げ・教育の責任者として従事。帰国後、インドネシアへの深い知見を活かし、JAPANNESIA株式会社を創業。