育成就労制度とは、国際貢献を目的に掲げる技能実習制度に代わり、「企業の労働力確保および外国人労働者の育成」を目的として2024年3月15日に閣議決定された新たな外国人雇用の制度です。
2027年までに技能実習制度が廃止され、育成就労制度へと移行する予定ですが制度についてよく分からないという方も多いのではないでしょうか。
本記事で、外国人雇用労務士が「育成就労制度」の要点をまとめ、はじめての方にも理解できるようわかりやすく解説していきます。
うちは技能実習生を受け入れているけど、影響はあるのかな..
育成就労制度がはじまることで、現在技能実習生を抱える企業にも影響がでてきます。本記事を読んでしっかりと知識を深めていきましょう。
育成就労制度とは、人材不足が著しい特定の産業分野において、「特定技能1号水準の技能を有する人材の育成」と「企業の労働力確保」という目的にあわせて創設された制度です。
技能移転による国際貢献を目的とする技能実習制度を抜本的に見直し、我が国の人手不足分野における人材の育成・確保を目的とする育成就労制度が創設されます。(育成就労制度は令和6年6月21日から起算して3年以内の政令で定める日に施行されます)
引用:出入国在留管理庁「育成就労制度の概要」
令和6年6月21日に「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律」が公布され、「技能実習制度」の抜本的な見直し案として「育成就労制度」が創設されました。
要点をまとめると、「国際貢献」としての技能実習制度は廃止となり、「育成就労制度→特定技能制度への移行を前提とした人材育成と労働力の確保」を目的として育成就労制度が開始されることになります。「廃止」という言葉を使っていますが、その実態は「技能実習制度のアップデート」といっても差し支えないでしょう。
それでは技能実習制度との違いはどんなところにあるのでしょうか?
以下に育成就労制度と技能実習制度の比較表を作成しました。
技能実習制度 | 育成就労制度 | |
---|---|---|
目的 | 技能移転による国際貢献 | 特定産業分野の人手確保 特定技能制度への移行を前提とする人材育成 |
在留資格 | 技能実習1号・2号・3号 | 育成就労 |
在留期間 | 最長5年 | 基本3年 |
外国人の支援 | 監理団体:受け入れ企業との関係により監理が不適切なケースも | 監理支援機関:名称が変更。外部監査人の設置を義務化などルールが強化 |
対象業種 | 90職種165作業 | 特定技能制度に原則合わせる |
受け入れ人数 | 上限なし | 上限在り(労働市場をもとに調整) |
日本語能力要件 | 原則無し(介護のみN4) | 日本語能力試験N5または相当の講習 |
転籍 | 原則不可 | 可(転籍は対象分野ごとに設定) |
それでは各項目ごとに技能実習制度との違いを詳しく見ていきましょう。
従来の技能実習制度では、技能を育成し、母国の社会貢献へとつなげる「実習生」の役割を果たしていましたが、今回の新制度創設に伴い、正式に「労働力」として制度が動き出すことになります。
また、育成就労制度では、現行の技能実習制度を発展的に解消し、「人材確保」と「人材育成」を目的としていることなど、特定技能制度への移行が前提となる制度設計になっていることが特徴です。
技能実習制度では、在留資格「技能実習」を取得した外国人を受け入れていましたが、育成就労制度がはじまると、在留資格「育成就労」を取得した外国人を受け入れる必要があります。
在留期間に関しては、技能実習制度の場合は、1号・2号・3号を合算して最長5年でしたが、育成就労制度では原則3年間となります。
※ただし、3年間の在留期間で、特定技能1号の試験を不合格となった場合には再受験のための最長1年の在留継続が認められる
これまで技能実習生と受け入れ企業をサポートしてきた監理団体ですが、こちらも「監理支援機関」として名称が変わり「受入れ機関と密接な関係を有する役職員の監理への関与の制限・外部監査人の設置義務」などを定める等、独立性と中立性を担保する方針でルールが見直される予定です。
監理団体についてもっと詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。
育成就労制度では、外国人が就労する前の段階で、日本語能力A1相当の試験(日本語能力試験
JLPTのN5等)の合格または相当する日本語講習を認定日本語教育機関等で受講しなければいけません。
日本語能力に関する要件が緩かった技能実習制度と比べ、新たに要件が追加されました。
受け入れ企業は、育成就労で受け入れた外国人に対し1年以内に技能検定試験基礎級のほか、日本語能力試験に合格していない場合は、日本語能力A1相当(日本語能力試験N5)を受講させる必要があります。
育成就労制度では、対象業種に関しても原則特定技能制度にあわせることになります。
技能実習が行われている職種のうち、対応する特定産業分野がないものは、現行制度が当該職種に係る分野において果たしてきた人材確保の機能の実態を確認した上で、特定産業分野への追加を検討する方針です。
外国人の転籍に関しても、外国人労働者の人権保護・権利の向上を図り、以下の条件の場合に限り転籍が認められるようになりました。
➀やむをえない事情がある場合
➁本人以降による転籍(一定の要件が必要)
ここまで大幅に制度が見直される背景には、技能実習制度が抱える課題を知っておくべきでしょう。
技能実習制度は1993年に創設された制度ですが、厚生労働省の資料によると当初の概要は以下の通りです。
技能実習制度の概要
➀人材育成を通じた国際貢献を目的(人材確保の手段でない旨法定)
➁受入企業が計画に基づき実習実施/監理団体による実習監理
③本人意向の転籍は原則不可
④技能実習機構による指導監督・相談・支援
規定に基づいて今日まで進められてきましたが、5年ごとの制度の見直しの際に問題視され、制度の改革へと踏み出すことになったのです。現行の技能実習制度の課題は以下のような問題点が挙げられています。
技能実習制度の課題
➀ 制度目的と運用実態(国内での人材確保や人材育成)のかい離
② 技能実習生の立場に立った転籍の在り方
③ 監理団体による監理等の体制や技能実習機構の相談・支援体制の充実
④ 技能実習生の日本語能力不足
現行の技能実習制度で挙げられる課題の中には、「技能実習生の借金の実態」や「入国すると転籍ができないこと」「一部の監理団体が健全に機能していない」などの問題点も含まれており、時代にそぐわない制度だと批判される技能実習制度を見直すことで、業界の健全化を図る狙いがあるのでしょう。
技能実習制度では、90職種165作業もの活動ができていましたが、育成就労制度では一部なくなる可能性がでてきています。
現在、育成就労制度が対象となる分野は以下の通りです。
介護、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業(製造)、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、 宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、鉄道、林業、木材産業、自動車運送業
技能実習が行われている職種のうち、対応する特定産業分野がないものは、現行制度が当該職種に係る分野において果たしてきた人材確保の機能の実態を確認した上で、特定産業分野への追加を検討する方針です。
送り出し機関に支払う手数料や渡航費などを受け入れ機関と外国人で分担する仕組みが導入予定です。
また、転籍が可能になる育成就労の場合、早期退職のリスクも生じるため企業に負担がかかる場合があります。これまでのように制度で人材を縛ることはできず、受け入れ企業には「働きやすい環境づくり」が求められるでしょう。
今回の記事では、育成就労制度について現時点での要点をまとめ解説しました。
育成就労制度は2027年までに施行されるといわれており、開始までにはまだ時間的な猶予があります。受け入れ企業はいまのうちに現在の状況を見直し、今後の新制度に向けた体制づくりを強化していきましょう。
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著者プロフィール
上田 浩之
外国人雇用労務士。JICA事業でインドネシアに2度の渡航を経験。現地にて整備学校の立ち上げ・教育の責任者として従事。帰国後、インドネシアへの深い知見を活かし、JAPANNESIA株式会社を創業。