就業者の高齢化や若手人材の確保難により、現場では慢性的な担い手不足が続いています。こうした課題を解決するため、2019年に導入されたのが「特定技能」という新たな在留資格制度です。
特定技能「建設」は、技能実習制度とは異なり、即戦力となる外国人材を比較的長期間受け入れられるのが大きな特徴です。2025年現在、制度は数回の見直しや再編を経て、対象業務の再編・2号資格への移行条件の整備など、より実務に沿った内容に進化しています。
本記事では、特定技能「建設」の基礎知識やメリット・デメリット、企業側が注意すべきポイントなどを徹底解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
うちも外国人を雇用したいけど、特定技能「建設」ってどんな制度なの?
特定技能「建設」は、2019年4月から開始された特定技能において外国人材を労働力として正式に受け入れることができる在留資格です。本記事で、基礎知識や最新の動向について詳しく解説します。
特定技能制度は、2019年4月に創設された外国人労働者向けの在留資格です。外国人が日本で働く場合は「在留資格」と呼ばれる資格内容に基づいて活動を行っています。
特定技能には以下の2種類があります。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
---|---|---|
産業分野 | 介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業 | ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業 |
在留期間 | 上限5年 | 上限なし |
更新 | 法務大臣が個々に指定する期間(1年を超えない範囲) | 3年・1年または6カ月ごと |
技能水準 | 技能実習を良好に終えている、特定技能1号評価試験を合格 | 特定技能2号評価試験を合格および監督者として一定の実務経験を積んでいる |
日本語レベル | 試験結果の証明が必要(日本語能力試験N4以上) | 試験の証明不要 |
支援の有無 | 支援計画に基づいた生活の支援が必須 | 不要 |
家族帯同 | 原則認められない | 要件を満たせば可(配偶者・子) |
転職・転籍 | 可 | 可 |
国土交通省省の「建設分野における外国人材の受入れ」によると、2023年12月末時点での特定技能1号「建設」における受け入れ人数は24,433人となっており、2020年度の受け入れ人数2,116人と比較して、わずか3年足らずで10倍の規模に成長を遂げている在留資格です。
特定技能「建設」は、土木・建築・ライフライン、設備といった建設業に係る業務に従事することができる在留資格として注目されています。
帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」によると、建設業における2004年度の就業者数は497万人でしたが、2025年には384万人へと大きく減少しています。
こうした現象には高齢化に伴う人口減少はもちろん「若者の建設業離れ」が進んでいることが要因として挙げられます。特定技能「建設」は、こうした課題を外国人雇用で解決するために創設された在留資格です。
特定技能「建設」は、大きく1号と2号に分類され従事できる業務の範囲も異なります。
基本的には、1号が現場作業員であるのに対し、2号では工程管理などの管理業務ができるようになるなど外国人の中長期的なキャリア形成にも役立つ制度となっています。
特定技能「建設」以外にも、本業界において外国人スタッフを受け入れることができる制度があります。
1.特定技能1号「建設」
2.特定技能2号「建設」
3.技能実習
4.技人国
5.資格外活動
6.特定活動
それぞれの受け入れ制度の違いについては以下の比較表をご覧ください。
比較項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 | 技能実習 | 技人国 | 資格外活動 | 特定活動 |
---|---|---|---|---|---|---|
目的 | 建設現場の即戦力確保 | 熟練人材の長期活用 | 技能移転・人材育成 | ホワイトカラー・専門職の採用 | 学費補助・生活費補助 | 緊急的人材確保 |
滞在期間 | 最長5年(更新可、ただし通算上限5年) | 更新回数に制限なし(要件次第で家族帯同可) | 最長5年(1号:1年×2回更新+2号:2年) | 在留期間更新可(1・3・5年など) | 在学中のみ週28時間以内 | 原則1年単位更新(最長5年等) |
日本語要件 | N4程度(日本語試験合格 or 技能実習2号修了で免除) | 高度な日本語力推奨(法的要件なし) | 不問(社内教育推奨) | N2〜N1程度が望ましい | N3〜N2程度が多い | 不問 |
試験有無 | 技能試験+日本語試験(※技能実習2号修了者は免除) | 2号技能測定試験 | 技能評価試験などあり(合否で次段階移行) | 学歴要件(大学・専門卒等)あり | 留学資格要 | 一部条件により必要 |
業務範囲 | 建設特定14作業(型枠、鉄筋、内装など) | 現場の監督補助や熟練業務、裁量的業務も可 | 指定職種・作業に限られる(監督業務は不可) | 設計、施工管理、海外調整、通訳など現場管理系 | 資材整理、清掃補助など補助的・軽作業のみ | 国が定める復興関連業務など特定作業 |
建設業で受け入れている外国人のなかで一番多い在留資格は、技能実習制度です。他の業界と比較しても技能実習による受け入れが最も進んでいる一方、技能実習制度は2027年を目途に廃止され、特定技能への足掛かりとなる「育成就労制度」が新たにはじまります。
技能実習制度が廃止されることや育成就労制度の前例が無いことから、ここ数年では特定技能による受け入れが加速しています。
特定技能が選ばれている背景には、技能実習からの移行が活発であることが挙げられます。
技能実習2号または3号を良好に修了した外国人は、特定技能1号への移行が可能となります。
建設分野の多くは高い専門スキルが求められるため、既に受け入れている技能実習生からの移行が進んでいる背景があります。
特定技能1号「建設」で従事可能な業務範囲は以下の通りです。
【建設業の業務範囲】
土木:土木施設の新設、改築、維持、修繕に係る作業等に従事
建築:建築物の新築、増築、改築若しくは移転又は修繕若しくは模様替に係る作業等に従事
設備:電気通信、ガス、水道、電気その他のライフライン・設備の整備・設置、変更又は修理に係る作業等に従事
建設分野で特定技能外国人が従事する業務は、「土木」・「建築」・「ライフライン・設備」の3つの区分に分類されており、各業務区分ごとに要する技能の水準と従事する業務の内容が規定されており、特定技能外国人はそれぞれの業務区分に対応した業務に従事することが可能です。
また、特定技能2号になると、複数の建設技能者を指導・工程を管理などのマネジメント業務に従事することができるようになります。
特定技能「建設」で外国人を受け入れる場合、適正な労働条件の設定、就業規則の説明、労働時間の管理など、法令を順守する体制が必須です。要件は以下の通りです。
特定技能外国人受け入れ体制の基準
(1) 雇用契約が適切であるかどうか(例:待遇が日本人と同等以上)
(2) 機関が適切であるかどうか(例:5年以内に出入国・労働法令違反がない)
(3) 【委託可】義務的支援の体制は適切であるかどうか(例:現地語で適切に支援できる)
(4) 【委託可】特定技能外国人の支援計画が適切かどうか(例:生活オリエンテーションなど)
(5)国土交通省による建設特定技能受入計画認定を受ける
(6)建設分野の特定技能協議会(JAC)に加入する
特定技能制度では、外国人を「労働者」として正式に扱うため、正社員雇用である必要があります。受け入れ企業は、日本人雇用と同じく労働基準法などを遵守し、各分野での協議会への加入が必要です。
受け入れ企業の義務
(1) 雇用契約、労働基準法の遵守(例:労働時間の管理・報酬を適切に支払う)
(2) 特定技能外国人の支援を適切に実施
(3) 出入国在留管理庁への各種届出
(4) 食品産業特定技能協議会への加入(飲食料品製造業は農林水産省が管轄)
飲食料品製造業の協議会は農林水産省「食品産業特定技能協議会(飲食料品製造業分野・外食業分野)について」をご確認ください。
特定技能のなかでも、建設分野だけは外国人採用の流れが異なります。特定技能「建設」で外国人を受け入れるに当たり、受け入れ企業は「建設特定技能受入計画」を策定し、国土交通大臣の認定を受ける必要があります。具体的な審査基準は以下の通りです。
上記に加え、受け入れ予定の外国人が在留資格を申請する前段階で、一般社団法人建設技能人財機構が運営する特定技能協議会(JAC)へ加入しなければいけません。
建設分野の協議会は、正会員団体に所属するか、賛助会員になることが求められ、会費が必要となります。
さらに、特定技能1号で外国人材を受け入れた場合は、受け入れ負担金として一人当たり月12,500円を支払う必要があります。
企業が、特定技能「建設」で外国人材を受け入れる場合には、外国人に対し職場、日常生活、社会上の支援等を行うことが義務付けられており、これを義務的支援と呼びます。
義務的支援のなかには、日本語学習の機会や日本人との交流促進などの継続的な支援も入るため、自社で義務的支援を行うケースは全体の2割程度です。ほとんどの受け入れ企業は「登録支援機関」とよばれる支援機関に義務的支援を委託しています。
特定技能1号の特定技能外国人は、直接雇用の必要があり、派遣などの業態で受け入れることができません。義務的支援に関しては、2年間の受け入れ実績がない場合は自社支援を行うことができず、「登録支援機関」へ支援を委託しなければいけません。支援業務に違反すると法令違反となりますので注意をしましょう。
特定技能の外国人は、給与や労働条件、社会保険・労働保険の加入などを含め、日本人と同等の待遇で受け入れることが条件となります。
外国人労働者と聞くと「安い労働力」として考えられがちですが、そのようなことはなく日本人と区別なく適切に評価しなければいけません。当たり前ですが、労働基準法違反に違反した場合は日本人職員と同じく処罰の対象になりますので注意してください。
外国人を許可された範囲を超えて働かせると不法就労となり、雇用主も不法就労助長罪に問われる可能性があるため注意が必要です。
違反例
・資格外活動許可のない留学生をフルタイムで働かせる
・就労資格のない観光ビザの人を雇う
企業側の罰則
・3年以下の懲役または300万円以下の罰金
対策
・資格の有無・内容を必ず確認し、許可された範囲内の業務のみ担当させる
・就労制限のあるビザの従業員は、勤務時間管理を徹底する
いかがだったでしょうか。特定技能「建設」は、これからの建設業を支える重要な制度です。建設分野は、技能実習制度の廃止などの影響が懸念されるため、今から特定技能への受け入れを検討することをおすすめいたします。
特定技能「建設」で外国人の受け入れを検討している方は、登録支援機関であるJAPANNESIAに一度ご相談ください。
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著者プロフィール
上田 浩之
外国人雇用労務士。JICA事業でインドネシアに2度の渡航を経験。現地にて整備学校の立ち上げ・教育の責任者として従事。帰国後、インドネシアへの深い知見を活かし、JAPANNESIA株式会社を創業。